月刊税務会計ニュース (平成28年10月)
主題 : 日本と韓国の民法上の遺留分制度
1. 遺留分とは?
被相続人は遺言(または贈与)により財産を自由に処分することができますが、一定の範囲の遺族に一定額を留保しておかなければならず、その限度を超える遺贈や贈与があるとき、その相続人は、返還を請求することができるようした制度である。
人が生前に自分の財産を自由に処分することができるように遺言として、財産を処分(遺贈)することも自由である必要があると思うが、死亡者近親者(相続人)の生計も考慮することなく死亡直前にすべて他人に遺贈する処分行為は望ましくないため、一定の割合の財産を近親者のために残すようにするのがこの制度の趣旨である。イギリス・アメリカを除くほとんどの国がこの制度を採用しており、韓国でも1977年の民法改正でこの制度を新設した。
2.
遺留分権利者の割合
(1) 韓国
遺留分の権利者は、被相続人の直系卑属・配偶者・直系尊属・兄弟姉妹など近親者に限るものとし、すべての継承順位者に認められるものではない(民法1000~1003・1112条)。その遺留分の割合も継承順位に応じて差がある。遺留分は、胎児に対しても認められ、代襲相続人も被代襲者の相続分の範囲内で遺留分を持つ(1118条)。
遺留分権を行使することができる者は、財産相続の順位上相続権がある者でなければならないので、第1順位の相続人である直系卑属がある場合には、第2順位の相続人である直系尊属は、遺留分権が認められない。遺留分の割合は、直系卑属と配偶者は、その法定相続分の1/2、直系尊属と兄弟姉妹は、その3分の1である(1112条)。
(2)
日本
遺留分は被相続人の兄弟姉妹以外の相続人にのみ認められ、被相続人の兄弟姉妹に遺留分はない(1028条)。なお、子の代襲相続の場合の代襲相続人にも遺留分は認められる(1044条・887条2項・887条3項・901条)。したがって、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人とその代襲相続人が遺留分権利者となる。
遺留分の割合は相続人(遺留分権利者)の構成により以下のように異なる。
これによって算出される被相続人の財産全体に占める遺留分の割合を抽象的遺留分という。そして、遺留分権利者が複数いる場合、遺留分全体を民法の法定相続分の割合に従って分配することになる。この各遺留分権利者が取得することになる遺留分を具体的遺留分という。
3. 遺留分の算定
(1) 韓国
遺留分は被相続人が相続開始時に持つ財産の価額(價額)に贈与財産の価額を加算して、債務の全額を控除して、これを算定する。条件付きの権利又は存続期間が不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価によってその価格を定める(民法1113条)。
贈与は、相続開始前の1年間に行ったものに限り、その価額を算定し、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前にしたの
も合算する(1114条)。
(2) 日本
遺留分は被相続人の財産を基礎として算定されるため、まず、算定の基礎となる被相続人の財産の範囲を確定することが必要となる。算定の基礎となる財産は被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与
した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して算定する(1029条1項)。
具体的な遺留分の額については、遺留分算定の基礎となる財産額に1028条で定められた遺留分の割合を乗じ、遺留分権利者が複数であるときは遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、さらに、遺留分権利者が特別受益財産を得ているときにはその価額を控除して算定する(最判平成8年11月26日民集50巻10号2747頁)。
4. 遺留分の保全
(1)
韓国
遺留分を侵害する贈与又は遺贈に遺留分権利者の遺留分に不足が生じた場合には、その不足の限度で遺留分権利者は、その財産の返還を請求することができる。贈与と遺贈を受けた者が数人であるときは、各自が得られた遺贈価額の比例で返還しなければならないが、贈与については、遺贈を返す受けた後でなければ、これを請求することができない(民法1115・1116条)。この請求権は、相続の開始と返還しなければならない贈与または遺贈の事実を知ったときから1年、相続開始時から10年が経過すると、時効消滅する(1117条)。
(2)
日本
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から、1年間行使しないときは、時効によって消滅する(1042条前段)。相続開始の時より10年を経過したときも同様である(1042条後段)。1042条前段の「減殺すべき贈与があったことを知った時」とは、贈与・遺贈があったことを知り、かつ、それが遺留分を侵害して減殺できるものであることを知った時をいうとするのが判例である(大判明治38年4月26日民録11輯611頁)。なお、1042条は遺留分減殺請求権そのものを対象とする規定であり、遺留分減殺請求権が行使された結果として生じた目的物返還請求権は1042条の消滅時効にはかからない(最判昭和57年3月4日民集36巻3号241頁)。
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